研究ブログ【コラム】#213
こらむ・マグロ所長
電気自動車にも鉛バッテリーが使用されている
近年少しずつ増えてきた電気自動車。電気自動車は「環境に配慮した次世代の自動車」というイメージがありますが、まだまだ改善の余地があります。そのひとつとしてあげられるのが鉛バッテリー。駆動用として使われているのはリチウムイオンバッテリーですが、補機用のバッテリーとして鉛バッテリーが搭載されています。ここでは、鉛バッテリーの性質や問題点、将来性について紹介していきます。
電気自動車には、「リチウムイオンバッテリー」と「鉛バッテリー」の2種類のバッテリーが使用されています。どちらも充電してくり返し使える二次電池ですが、その性質は異なっておりそれぞれにメリットとデメリットがあります。2種類のバッテリーの特徴と用途を紹介します。
□リチウムイオンバッテリー
リチウムイオンバッテリーは、電気自動車のタイヤを動かす駆動用のバッテリーとして使用されています。1991年に実用化された比較的新しい電池であり、劣化が少なく長持ちするのが特徴です。
また、小型でも多くの電気を蓄えることができるため、車体の軽量化や燃費の向上につながっています。そのほか、出力が大きかったり、短時間で充電できたりと、さまざまな面で優れています。
しかし、希少な資源を材料としており価格が高いのが難点です。
□鉛バッテリー
鉛バッテリーは、ヘッドライトやオーディオなどの電飾系統のほか、車両を制御する車載コンピュータの電源として使用されており、補機用バッテリーとよばれることがあります。100年以上前から使用されており、安全面やコスト面で優れているのが特徴です。
しかし、鉛バッテリーには劣化しやすく寿命が短いという性質も。また、出力できるパワーが小さく、大容量の電気を蓄えようとすると大型で重くなってしまうというデメリットもあります。
■電気自動車に鉛バッテリーが使用されている理由
リチウムイオンバッテリーのほうが優れているという印象を受けますが、それでも電気自動車の補機用バッテリーには鉛バッテリーが使用されています。補機用バッテリーとして鉛バッテリーが使用されている理由を3つ紹介します。
□コストが低い
鉛バッテリーに必要な材料は容易に確保できるため、低いコストで作成することができます。一方、リチウムイオンバッテリーはリチウムやコバルトなど産出量が限られた資源を使用しているため、コストが高くなってしまいます。
□安全性が高い
鉛バッテリーは二次電池として使用されてきた歴史が長く、安全性が確立しています。高温下や衝突時でも、爆発や火災が起こるリスクが少なく、補機用のバッテリーに適しています。
一方、リチウムイオンバッテリーは、過放電や過充電を防止するために制御システムが必要であったり、温度による影響を受けやすかったりするので、補機用のバッテリーとして使うには課題が多いのが現状です。
□安定的に供給できる
鉛は埋蔵量や産出量が多く、かつリサイクルによる再資源化の取り組みが確立しているため、安定的に供給できます。いずれの金属資源も有限ではありますが、鉛においては今後数年で供給不足におちいるという心配はありません。
■鉛バッテリーの今後
鉛バッテリーは数々のデメリットもありながら、それでも現在まで広く使用され続けてきました。しかし、近年では鉛バッテリーの性能面だけでなく環境への負荷が問題視されており、今後の使用に影響がでる可能性があります。
□環境や人体への負荷
鉛は環境や人体へ悪影響をおよぼすことがわかっています。自動車を使用中に鉛バッテリーが悪影響をおよぼすことはありませんが、不要になったものを処理する際に、適切に処理をしないと環境や人体へ悪影響をおよぼす可能性があります。そのため、今後の使用が懸念されています。
□鉛バッテリーは今後も使用され続けるのか?
自動車で使用している鉛バッテリーに関しては、現段階ではとくに規制はされていません。ヨーロッパでは使用を禁止することも検討していましたが、理にかなう代替材料がないことから禁止されずに現在にいたります。しかし、今後は制度の見直しとともに禁止される可能性もあり、代替材料の開発が進んでいくことが予想されます。
現にヨーロッパでは、2025年ごろから補期用のバッテリーとしてもリチウムイオンバッテリーの使用が増加するとされています。日本の自動車メーカーでも、リチウムイオンバッテリーを補機用のバッテリーとして使用するために研究をしているところがあり、今後は世界的にリチウムイオンバッテリーの使用が増加していくでしょう。それにともない、鉛バッテリーは徐々に減っていくとみられています。
■まとめ
今回は電気自動車に使用されている鉛バッテリーについて紹介しました。鉛にかぎらず最近ではいろいろな環境問題を耳にしますよね。一人ひとりが当事者である意識をもち、まずは知ろうとすることが大切です。